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『リスクとリターン』#99喜多川智信

何かに本気になるということは言葉で言うほど簡単ではないと思う。本気になればなるほど失敗した時のショックや傷は大きくなり、それを恐れて行動をとることができなくなっていく。

自分はよくこのことに足を取られることがある。

 

3年生の頃、ある試合に負けた時、決定機を外した先輩が泣いているのを見た。その先輩は誰よりストイックで、誰より試合の勝敗の責任を負って、実際に1番結果を出していた。だからたった1試合調子が悪かったことくらいで気にすることはないと思っていただけに、その姿を見た時は驚いた。同時に、自分が同じ立場になっても泣けないなと思った。理由は簡単で泣くに値する程の努力はしていないからだ。

 

これを読む多くの人が現役の部員だろうから知っていると思うが、かなり負けず嫌いだし、練習のミニゲームでも負けたらめちゃくちゃ腹が立つような性格をしている。ただその頃に関しては心の中で自分に見切りをつけていたと思う。最初の12年は練習に付いていくのが精一杯で、上手くいかないことが当たり前だったが、単純にサッカーができることが楽しかったし、それだけで充分だった。

3年生になり多少試合に出られるようになった時、相手とのレベルの差を知って自分にできることとできないことがはっきりと見えてしまったようで途端にサッカーが楽しく感じなくなっていった。自分の新たな課題が見えた時に、それを乗り越える前に自分の実力ならまあこんなものかと思って諦めてしまっていた。

よく考えてみるとこの性格はサッカーだけじゃなく、自分の人生における色々なことに通じているなと思う。何に対しても普通に努力はするし、そこそこできるようになる。ただ限界までやり切れたことはなく、全てを出し切ったと心から思えたことがない。

 

好きでやっていることになぜ本気でやり切れないのかについては今でもはっきりとは把握できていない。自分の全てを出して負けた時、結果が出なかった時に自分の弱さ、自分の底が見えてしまうのが怖いかもしれない。自分の中で自分の最低ラインを想像するのを、自分の費やした努力が結果として否定されるのを恐れているからかもしれない。まあ理由はともかくこうして本気にならずやり過ごしていれば真に自分が傷つくことはないのかもしれないが、当然に喜びを感じることもない。

超単純なことだが、その時の自分にはそれができていなかったし、気づいてもいなかった。

そうしていても時間の無駄だと気づいてからは自分のやるべきことに最大限の努力と集中をしてきた。

 

今振り返ると、そこからが1番悔しい思いをしてきたと思う。試合に負けた時や試合に出られなかった時の悔しさは今でもリアルに思い出せるし、プレーが思うようにいかずにイライラしてブチ切れた回数はもう数えきれない。だがその代わりに、試合に勝てた時や試合で点が決まって皆で喜んだ瞬間、応援する皆の声はそれ以上に心に刻まれている。

 

結局何が言いたいのかというと、どんな動機や熱量でこの部活を選んだにしろ、貴重な大学生活の内、週5日もサッカーに費やすのであれば、本気でやって、本気で楽しまないと超勿体無いということ。あくまでサッカーというスポーツである以上、試合に出ることができるのは十数人で、それは客観的なサッカーの実力で評価されるし、そうあるべきだと思う。だから努力しようが結果がついてこないなんてことは当然にあるけど、結果への後悔に関してはどれだけ活躍している選手でも思い出すだけで悔しくなる試合なんていくらでもあるわけで、人によって態様は違えど全員に与えられていて避けることができないものだと思う。だから失敗する前に結果への後悔を恐れていても時間の無駄でしかないのだ。

それより重要なのは過程に対しての姿勢だと思う。

過程に関しては全ての選択権が自分に委ねられている。本気でやるのも適当に時間を過ごすのも自分次第。過程に後悔することなく終わるためには各々が長期的な目標を前提に、その時々のやるべきことだけに余計なことを考えずに取り組んでいかなければならない。それぞれが持っている課題を乗り越える為に努力していれば、たとえ結果がついてこなくても自分に対してやり切ったといえることができるという点で過程に後悔することはない。

 

自分の大学サッカーの4年間を振り返ってみて、多少の浮き沈みはあったものの、過程に対する後悔はほぼなく終わることができたと感じている。しっかり思い返せば色々反省点もあるのだが、それ以上にこの部活が自分に与えてくれたものに感謝している。一緒に戦った仲間や本気で熱中できるものに出会えたこと、みんなで勝利を喜んだ瞬間。どれも趣味の延長線上としての部活の域を超えた、他の何にも変えることができない時間だったと思う。入部した動機はほんのささいなものだったが、終わってみれば都立大のサッカー部は自分の中の本当に大きな存在になっていた。自分はこの部活で過ごした4年間を決して忘れることはないだろう。

 

最後に、一緒に戦った先輩、後輩、そして同期のみんな、その他関わった大勢の方々、本当にありがとうございました。今後とも都立大サッカー部の活躍に期待しています。