『あの日から』#11内藤出


 それはまるで,スポットライトで照らされたステージ上にいるかのような気分だった.

 

リーグ戦第16節 武蔵大学戦 前半25分

 

完璧な裏パスに,完璧なタイミングで抜け出し,完璧なファーストタッチでキーパーをかわす.

 

会場全体が息を呑むのを感じる.

 

ボールをゴールに流し込む.

 

歓声が鳴り響く.

 

仲間が自分のもとへ駆け寄ってくる.

 

最高の瞬間だ.

 

何にも代え難い高揚を感じる.

 

このためにサッカーをしているのだと

 

 

 

 

 

 

 

それはまるで,暗闇に突き落とされたかのような気分だった.

 

リーグ戦第16節 武蔵大学戦 後半10分

 

手をついた左腕に,相手の体がのしかかる.

 

思い出せば,ゾッとするような鈍い音とともに,激痛が走る.

 

一瞬で骨折したことを自覚した.

 

救急車で運ばれる.

 

完全に折れた左腕は,手術を余儀なくされた.

 

全治3ヶ月を告げられる.引退まで1ヶ月半.

 

絶望だった.

 

どれだけの時間をかけ,どれほどの気持ちで,今シーズンに臨んでいたか.

 

家に着き,1人になると,涙が止まらなかった.

 

 

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5歳になると兄の影響でサッカーを始めた.ただ単純にボールを追ってゴールに入れる.それだけで楽しくてサッカーに夢中になっていた.

 

 

小中学生の頃は地元の小さなクラブに所属していた.それなりに熱心に続けていると徐々に実力がつきはじめ,選抜にも選ばれるようになった.サッカーをしているときの僕は,間違いなく輝いていた.

 

 

高校の頃には国体選抜に選ばれ,全国大会も経験した.家族や友人からは祝福され,学校の集会では表彰された.周囲の期待に応えることができて嬉しかった.サッカーをしているときの僕は,認められていると感じていた.

 

 

大学では体育会のサッカー部に入部することを決めていた.サッカー部に入部することを決意していたというよりは,サッカーを辞める勇気がなかったと言う方が正確かもしれない.僕からサッカーを取ったら何も残らないのではないかと不安に思った.

 

 

入部してすぐにAチームに入り,公式戦にも多く出場することができた.しかし,先発に起用されることは少なかった

 

 

2,3年生になっても先発に定着することはできなかった.正直言って自分が出た方が活躍できるし,相手にとって脅威であると心から思っていた.当時の主将に頼むから先発で使ってくれと直談判するくらいには不満が募っていた.

 

 

ベンチから眺める試合はひどく退屈だった.

 

 

自分じゃない誰かが点を取ると悔しかった.かつてはベンチ外だった同期が活躍しているのを見て劣等感を感じた.自分が出ない試合は負けてしまえとすら思った.

 

 

サッカー部における自分の存在価値を証明することができず,不安だった.結局僕は,自分の存在価値を証明するための手段としてしかサッカーをしていなかった点を取る.試合に勝つ.仲間に称えられる.全ては自分が活躍することだった.

 

 

この頃にはもうサッカーが好きではなくなっていた.

 

 

 

 

 

 

4年生になった僕は,先発で試合に出るようになった.結果を出すことに必死だった.結果を出して,存在価値を証明する必要があった.

 

 

新チームになって初めての公式戦,僕にとってのサッカーが変わった.僕はチームのために走った.チームのために全力で守備をした.自分の活躍を二の次に体力を削った.存在価値とかどうでも良かった.

 

 

なぜ急にそうなったのかは分からない.最上級生になったからなのか,先発が定着して余裕が生まれたのか,結果に固執していた自分に嫌気が差していたのか.

 

 

チームのために走るのは楽しかった.チームメイトと“共に”戦うのは楽しかった.負けたけどその試合はすごく楽しかった.

 

 

それから僕はチームを勝たせるためにサッカーをしていた.すると徐々に結果もついてくるようになった.リーグ戦開幕4戦4連発.チームメイトからの信頼も得てきているように感じていた.

 

 

そんな好調だと思っていたリーグ戦終盤,骨折した.

 

 

骨折後,いくつかの病院を周り,腕専門の医師に診てもらうことになった.医師にどうしても復帰したい旨を伝えると,なんとかすると言ってくれた.おすすめはしないし,完治はしない.次試合で手をつけば,もっと複雑に骨折し,大手術になる.それでもいいなら,ということだった.迷いなく復帰の道を選んだ.検査後,即入院し,次の日には手術をした.

 

 

それからのリハビリ期間中,チームは3試合のリーグ戦を戦った.ピッチの外から見る試合は,かつてベンチから眺めていた不満に満ちた自分とは違った感情で応援することができた.自分が出場していない試合を心から応援することができた.仲間のゴールが心から嬉しかった.チームの勝利を心から喜ぶことができた.

 

 

3週間のリハビリを経て,9月25日第20節一橋大学戦で復帰することになった.それからの試合は言わずもがな,大活躍をすることとなる.

 

 

僕は,東京都大学サッカーリーグ戦2部において,優秀選手賞を受賞した.この受賞に関しては,謙遜ではなく,ひとえにチームの皆のおかげであるのだが,僕にとってはあまりにも価値の大きな受賞であった.


 

今シーズンは,自分の活躍を二の次にチームのためにプレーすることが多かった(周りから見ればそうではない可能性も承知である).そんな中で認められた僕個人の活躍.自分が活躍することだけを考えていた過去の僕には受賞することはできなかったであろう.

 

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今の僕は,サッカーが好きだ.

 

 

自分の存在価値を証明するだけのサッカーは,もうやめ

 

 

ピッチ上の仲間11人で,ベンチに控える仲間と,支えてくれるマネージャー,コーチ,応援してくれる仲間先輩,家族,全員のためにサッカーをすることができた.

 

 

本当の意味でのサッカーの楽しさを,サッカーを始めて18年,初めて知ることができた.

 

 

これだけ書いた文章も.言葉にすればとてもチープに感じてしまう.何にも変え難い経験をすることができた.ありがとう,大学サッカー.ありがとう,都立大サッカー部.

 

 

この,大学サッカーをもって,本気で取り組むサッカーは最後になると思う.これまでサッカーをやってきて良かった.大学でサッカーをすることを決断して良かった.

 

 

 

 

最後に,僕のサッカー人生において,関わってくれた全ての方々,本当にありがとうございました.間違いなく,サッカーを通して関わってくれた皆様のおかげで未熟ながら成長できたと感じています.

 

 

今後の東京都立大学体育会サッカー部の益々のご繁栄を心からお祈りしております.





内藤出