『財産』 #15 新井田太郎

 日頃から東京都立大学体育会サッカー部を支援してくださるOB・保護者・関係者の皆様、 昨シーズンも多大なる応援ありがとうございました。引退から5ヵ月近く経ちますが、卒業 にあたって私が都立大サッカー部での活動を通じて感じたことを率直に書きたいと思います。


 私が都立大サッカー部で4年間過ごした感想を端的に表すと、純粋に「楽しかった」「充 実していた」と表現できます。私は大学に合格した時からサッカー部に入る決断をしていましたが、実際に入って良かったと心の底から感じていますし、多種多様な過ごし方がある大学生活の中で、体育会サッカー部に最も多くの時間を費やしたことは間違いではなかったと確信しています。


 このように思える理由は色々ありますが、一つはリーグ戦で勝利した時の記憶が強く心に刻まれているからだと思います。プレーヤーである以上、ピッチに立って勝利に貢献できることはやはり格別に喜ばしいことです。これまでのサッカー人生で試合に出ていい思いをすることもあれば、試合に出られなくて不甲斐ない思いをすることもありました。そういった中で、おそらく競技として真剣に取り組むのは最後であろう大学サッカーで多くの試合に起用してもらい、ピッチでたくさんの喜びを感じられたのはこれ以上なく幸せなこと だと思います。あの喜びや興奮は何にもかえ難いもので、本気でやるサッカーほど楽しいものはありません。そう思えるほど熱くなれるものに出会えて良かったですし、高校で部活を引退する人が大半の中、大学でもサッカーに本気で取り組めたことは自分にとって大きな財産だと思います。


 さらに、責任感や自立心が向上し、精神的に成長できたという面でも良かったと感じてい ます。特に4年になってからは、試合で自分がリーダーシップを取らないといけないと常に 責任を感じながらプレーをしていました。実際の所どれくらいできていたのかは分かりま せんが、この経験によって選手としても人間としても成長できたのは間違いないと思って います。また、上手くなるために自分で考え、試行錯誤して改善を繰り返すことで、プレー だけでなく、思考力、精神力も向上したと思います。高校までは練習メニューからメンバー 決めまで絶対的な権限を持つ指導者がいて、その人に評価されるにはどうしたら良いのか ということが常に頭の片隅にある中でプレーをしていましたが、大学では単純にもっとサ ッカーが上手くなりたいという純粋な向上心を持ってプレーできていました。その結果、本当の意味で自分自身に向き合う時間も増えましたし、精神的な成長にも繋がったと思います。


 ただ、振り返って悔やまれる部分も少なからずあります。自分にもっと能力があれば、より多くの勝ち点を拾えたのではないか、戦術の幅も広がったのではないか、今頃後輩たちは 1 部リーグで戦えていたのではないかと今でも強く思っています。このような後悔を少しでもなくせるように後輩たちには頑張ってほしいです。脅すつもりではないですが、私は高校 3 年の夏に全治約 1 年の大怪我をして部活を引退しています。それまでは自分が怪我なんかするはずがないと思っていましたが、誰しもがこうなる可能性があるのです。当時も怪我をしてから強烈に後悔したのを覚えていますし、後輩たちは「今日でサッカーができなくなってもいい」と思えるくらい毎日全力で取り組んでほしいです。私もこのような挫折や後悔を忘れずに、これからの人生を過ごしていこうと思います。


 これまでの人生を振り返ると、私が人生で大きく心を動かされる経験はほとんどがサッカーの中で起きていると気付かされます。嬉しいことも、悔しいことも、楽しいことも、むかつくことも、感動することも、ほぼ全てがサッカーを通して抱いた感情であり、それぐらい私にとってサッカーは特別なものなのだと思います。優れたサッカー選手ではありませ んでしたが、サッカーのおかげで今の私がいることは紛れもない事実です。このような素晴 らしいスポーツに出会えたことは一生の財産ですし、一緒にプレーしてくれた仲間、サッカ ーを教えてくださった指導者の方々、応援してくれた家族に本当に感謝しています。これから社会に出て、サッカーでしてきた経験がどれくらい役に立つのかは分かりませんが、今までの経験を心のお守りにして、胸を張って生きていけたらと思います。


 そして、都立大サッカー部がこれからもっと発展していけるよう、OB として後輩たちの 活躍を心から応援しています。4 年間お世話になりました。本当にありがとうございました。

新井田 太郎